浪速のビョークになりたかった

なりたかったけどなれなかった、でもそれでええんです

大阪に帰ってきた

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明後日からまた社会人復帰ということで、ここ1週間ほど実家に滞在していた。

最終日の今日は、日曜日ということもあって何故か一家総出で一人暮らしの部屋まで1時間ほど新御堂をぶっ飛ばして送って頂けたのだった。

流れるテールランプとラジオから掛かるビリーアイリッシュ。腹から声を出さない彼女の歌声は排気の音に飲まれ何処か遠くに消えていく。ずっと梅田新道まで続くオレンジ色のランプ、80キロで進む小さな車のなかにオレンジが差し込むリズムは随分とハイテンポで、もう少しゆっくりでもいいと思った。

うとうとしていたらもうすぐに私の部屋のそばで、実家の周りではまず見ないカレー屋、中華屋、ピザ屋の並びがキラキラと列を成している。戻ってきてしまった。

実家で過ごした緩やかな時間が恋しくなり、忙しなく昼夜問わず光が差し込む私の部屋のカーテンの柄を頭から振り払って、庭の梅の木を精一杯思い描いた。

またねとお母さんが野菜のたっぷり入ったスープを持たせてくれた。ちょっとした庭石ほどに重たくてちょっと笑った。お父さんは照れ臭くてどこかでトイレを済ませてくるとコンビニの方へと消えていった。妹は珍しく元気でな!と叫んでいる。

重たい荷物を持って古びたエレベーターに乗ると涙が出てきた。この街を、この部屋を、私は牢獄や地獄の類だとは思っていない。だけど涙が止まらない。

ファン、とよく知ったクラクションの音が鳴った。すると梅の木、土の匂い、大きな峠の夕暮れ、コンビニまでの20分の畦道、妙に実家が恋しくて、また家族にありがとうって言っておきたくて、これからの生活が怖くて、荷物を置いてすぐにまた部屋に鍵をかけ、家族の乗った車をゴミ出しスリッパで追った。

追いかけて追いかけて全力で走って、ついに気付かれずに交差点で見失った。植え込みに腰掛けて、喉から少ししみる血のような味に何ヶ月もロクに運動していなかったことを悔やんだ。トボトボと、来た道を帰る。

また1人になった。 

 

寂しくはない、ここは四六時中と交差点の光が差し込む大都会。隣の部屋からなんだかよくわからないフォークソングみたいなのも風に乗って聞こえてくる。

 

お金はない、勇気もない、技量もない。既卒なのに経験もない。

でも多分大丈夫だ。久々のランニングですこし元気が出た。またやっていける。いい歳してあんなに意味もなく走れるんなら、新しいとこでもきっとうまくいくよ。

そう自分に言い聞かせて、暫く振りの私の部屋をぐるりと見渡す。いいことも悪いこともいい人も悪い人もたくさん訪れたこの部屋、それにこの街も、この春で3年目の付き合いだ。

 

明日からもう少し、私はこの街で生きていくことにした。

 

By Beshy